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薬丸岳『Aではない君と』は、少年犯罪を題材に、親子の絆と「正義とは何か」という問いを真正面から描いた社会派ミステリーです。
主人公の父・哲也は、息子が同級生を殺害したという信じがたい現実に直面し、事件の真相を探ろうとしていきます。
序盤から張りつめた空気が続き、父親の苦悩や葛藤が丁寧に描かれることで、読者は「もし自分だったら」と何度も立ち止まらざるを得ません。
加害者と被害者、親と子、そして大人の責任が交錯する構成が見事で、社会問題をエンタメの枠を超えて深く掘り下げていきます。
後半では、哲也が息子と向き合う姿勢の変化を通じて、罪を背負うことの意味と人が再生する可能性を静かに描き出します。
事件の真相が明らかになるにつれ、単なる推理ものではなく「人間を描く物語」へと昇華していく点が圧巻。
薬丸岳らしいリアリズムと心理描写の緻密さが光り、読後には重くも温かい余韻が残ります。
親であることの痛みと希望、そして「信じる」という行為の難しさを、深く考えさせられる一冊、親と子供・家庭問題の研究にもおすすめです。