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子どもである主人公が、大人社会の理不尽や暴力的な言葉にどう向き合うか。その過程には、辻村作品に通底する「正しさとは何か」という真摯な視線が貫かれているように思います。
決して感情に流されず、理詰めで復讐を計画する主人公の姿は痛ましくもあり、同時にまぶしいほどの純粋さを感じます。
物語は一見、少年の知的な復讐劇として進むが、やがてそれが「赦し」と「再生」の物語へと転化していく展開に胸を打たれます。
作者は子どもを決して幼く描かず、むしろ大人よりもまっすぐに真実を見つめる存在として描写しています。その誠実さが、読後に深い余韻を残していきます。
タイトルの「メジャースプーン」は、他者を量る“尺度”の象徴で、誰かを裁く前に、自分の心のスプーンで本当の重さを測れるのか――そう問いかけられているような静かな痛みと希望が、この物語にはあるのではないでしょうか。