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吉田修一『悪人』は、現代社会が抱える孤独と、人間の内に潜む善悪の曖昧さを鮮烈に描き出した長編小説です。長崎で起きた殺人事件をきっかけに、加害者・被害者・その家族、そして事件に関わる人々の視点が交錯しながら物語は進みます。単なる犯罪小説にとどまらず、「人はなぜ他者を傷つけ、なぜ誰かを愛するのか」という根源的な問いを突きつける作品です。地方都市の閉塞感や現代の人間関係の脆さが巧みに描かれ、読む者の心を深くえぐります。
吉田修一の作品は繊細でありながらも力強く、登場人物一人ひとりの感情が静かに、しかし確実に胸に迫ってきます。誰もが「悪人」と呼ばれる可能性を秘めているというテーマは、現代に生きる私たちに強い共感と警鐘を与えます。
映画版では妻夫木聡さんや深津絵里さんなどの俳優陣の熱演も話題となりましたが、やはり小説では心の内側を丁寧に描き上げています。読むたびに新たな発見があり、「人を理解するとは何か」を深く考えさせられる名作です。